週間新潮連載コラム「ブルーアイランド氏のクラシック漂流記」の
作者青島広志氏の疑問について、永森邦雄氏(
50期)による回答文を
掲載します。(週間新潮編集部に送付済み)    
広報H・M

青島氏は東京藝術大学大学院を首席で修了、作曲はもとよりピアニスト
・指揮者、コンサート等のプロデュース、ラジオ・テレビ出演、著書も数多く、
幅広い活動をしている。
コラム「クラシック漂流記」は2010年9月から連載され、
クラシック界の内情を多少ユーモアを交えて描き、話題になっている。


「11月24日発行12月1日号」 (第60回)には「校歌」のことが取り上げられている。
テーマ「校歌」について、まず幸田延のことが言及されている。
そして、幸田延作曲の我が校歌について最初の二小節が滝連太郎の「荒城の月」
全く同じなことに解釈に苦しむが別個の曲と考えていいのではと記している。

又、作曲料についてその頃は幾らだったのか、疑問を投げかけている。
(記事全文はHPに掲載済み)

<以下永森氏による回答文>
                             平成
231129
週刊新潮編集部 御中 

                 神奈川県立横浜平沼高等学校同窓会真澄会 歴史資料委員会 永森邦雄

週刊新潮(11121発行)連載青島広志氏記事「クラシック漂流記…校歌について」に関して

この度の連載記事興味深く拝見しました、また記事を登載下さり感謝しております。
記事中に問いかけがありましたので、関係者として整理してみました。先刻ご承知のことかと
存じますが、なんらかのご参考になれば幸いです。


 1 幸田延の作曲料について
幸田延に作曲を依頼したのは、本校2期生(明治37年本科卒)末木美衛で、末木は本校卒業後
東京音楽学校に進み、校歌作曲依頼の時期は母校の音楽教師を務めていた。依頼の際の事情を
記した末木の文章が残されているが(本校
70年誌及び100年誌に収録)、作曲料についての記載はない。

 2 「…全く同じなので…解釈に苦しむところだが…」について
本校関係者の間では、幸田延が弟子滝廉太郎を追悼して、意図的に二小節を本校校歌の冒頭に取り
あげたものとの解釈が定着している。

 このことについては、本校62期生滝井敬子(東京藝術大学卒、同大学演奏芸術センター常勤助手)
の研究がある。(滝井はこのことをテーマにして、平成
13104日母校で講演を行っている。)

 3 前項の解釈を是としても、幸田延が何故追悼の対象として本校の校歌を選んだかについての
理由が必要だが、その点を前記滝井は講演の中で、「荒城の月」が中学唱歌として選定された年と、
本校の開校年とが同じ明治
34年であることを指摘している。

 4 本校の校歌を選んだ理由は、前項の事実に加え次の事実も幸田延の思いの中にあったのではないかと
推測している。その事実とは、廉太郎と神奈川県との浅からぬ因縁である。

 1)廉太郎は箱根「芦の湯のきのくに屋」に逗留して、「箱根八里」を作曲したことは広く知られている。

 2)廉太郎は幼少期(明治1511月から198月まで)を横浜で過ごし、西洋音楽にしたしむ生活を送っていて、
   横浜での生活が廉太郎の音楽人生に大きな影響を及ぼしたと言われている。


 ちなみにこの時期、廉太郎の父吉弘は、神奈川県小書記官(現在の副知事相当)を務めており、廉太郎は
神奈川県の官舎(西区紅葉ヶ丘の現在県立図書館・音楽堂の辺り…開港時神奈川奉行所の跡地…にあった。*1)
に住んでいた。廉太郎は、ここで明治
195月小学校に入学し(*2)、同年11月父の転任に伴って富山県に
転居している。なお、廉太郎の入学した小学校は、横浜市の横浜小学校か神奈川県師範学校付属の老松小学校の
いずれかと言われているが、その後両校とも火災により焼失しており、学籍簿からの証明は、現在ではできない。


参考資料の一部

 @末木美衛手記(本校創立100年誌p82写し添付
 A滝井敬子先輩セミナーでの講演資料(「わたしたちの校歌の作曲者は、どんな人?」及び新聞記事…いずれも写し添付
 B神奈川県職員録明治
1711日改(写し添付
 C横浜・中区廃校誌―横浜市中区役所
 D滝廉太郎記念館しおり  
 E「滝廉太郎の生涯」―堀正三 昭和書院新社

 F「滝廉太郎」―小長久子 吉川弘文館 
 G「小田原・箱根・湯河原文学散歩」―小田原文芸愛好会 ・・・その他


 *1 廉太郎が住んでいた官舎が現在県立図書館・音楽堂の辺りにあったことは、同館の関係者の中では半ば
    定説化している。(永森は両館の勤務歴あり)

 *2 東京藝大に伝わる廉太郎自筆の履歴書には、横浜での小学校入学の記載はないが、父吉弘の勤務歴からして
    横浜での小学校入学は事実と考えられている。