花橘55号 連載(1) 先輩セミナー2004 池田達郎さん(63期、ドキュメンタリー映画監督)

先輩セミナー2004
―魅力と特色プラン委員会― 

開催日および講師紹介

① 6月19日(土)
 池田達郎さん(63期)ドキュメンタリー映画監督
② 6月26日(土)
 間瀬勝一さん(60期)横浜市芸術文化振興財団
 エグゼクティブディレクター
③ 7月3日(土)
 枝元なほみさん(70期)料理研究家
④ 7月10日(土)
 神山 明さん(68期)東海大学教養学部芸術学科教授
⑤ 9月11日(土)
 堀 潤さん(93期)NHKアナウンサー


池田達郎さん(63期、ドキュメンタリー映画監督)

 皆さんはどんな映画を見ますか。映画には「ドラマ」「ドキュメンタリー」「ニュース」といった分野が有りますがドキュメンタリーは見る人も少なく、マイナーな分野かもしれません。仕事としては面白い仕事です。経済的には厳しいのでお勧めできませんが、興味を持ってもらえたらと思います。

 今は「台湾の民主化」という映画の仕事を頼まれていますが、これは現在も国民党と民進党がしのぎを削っている当の台湾ではなかなか扱えない内容だからです。ところが、アメリカでは自分たちの人種差別の問題をテーマにして「公民権運動」を扱った作品など、優れたものが作られています。日本のNHKを例にとると、全国の人から受信料を集めて番組を作る。そした日本中全国にどんな番組を放送するかという番組編成権はすべて渋谷にあるわけです。アメリカでは地域の人たちの寄付で番組を作り、編成権も地域地域が持つというシステムがある。そういうリベラルな国だからこうした作品も作られるのです。その他で映画の仕事をしていてアメリカと違いを感じるのは、日本では監督を頂点として様々な役割・職種がありそのピラミッドを何年もかけてのぼっていく感じですが、アメリカではそれぞれの職種の熟練者がいて仕事をしている、だから経験の浅い監督より高い報酬を貰っているスタッフがいたりするというところです。

 ドラマ、バラエティー、ニュースとテレビでは様々な映像が流れていますが、本当の意味でのドキュメンタリー番組は、今のテレビではほとんどありませんね。ドラマやバラエティーはドキュメンタリーと違って「作り物」ですがそれは「娯楽性」を目的としているということで一つの意味がある。一方ニュースには事実を報道するという役割がある。それぞれの好みでドラマでもバラエティーでも見てもらえばいいのですが、どんな番組でも客観的に冷静に考えながら見てほしいと思います。

 今日見てもらった「神々の棲む里」は、日本人にとって「神様とは何だろう」というテーマでとった作品です。今の日本人はお正月は初詣(神道)、お盆には仏壇に手を合わせ(仏教)、クリスマスを祝う(キリスト教)といった生活をしていて特定の信仰を持っているわけではない生活をしていますが、考えてみると知らず知らず神の存在を意識している。信州の過疎地帯、遠山郷の厳しい自然の中で暮らす人たちはそうした神様を自分たちが生きていくうえで必要なものとしてより意識することが多い。本来、神様とはそういうものなのではないかということを描いたのです。私自身は横浜の本牧で生まれ育ち、地方の田舎に住む親戚もなかったので29歳の時に初めて山村の生活を撮りに行ったときは新鮮な驚きが有りました。こんな山奥に人が暮らしている…。この作品もその延長に有ります。

 先ほどドラマは「作り物」と言いましたが、反対にドキュメンタリーはあるがままを記録していくもので、人間の営み、文化をまとめるということにつながります。私自身は「伝統芸能」「職人の世界」「文化財」などに興味を持っています。ドキュメンタリーを撮るには、取材対象となる人と人間関係を作る必要が有ります。一つのテーマを作品にするのに、短くてひと月、長いと何年も取材をします。そうして友達になった人がいろいろな所にいて、今でも遊びに来たり遊びに行ったりという付き合いをしています。あとは、世界の各地を取材して、その土地の珍しいものをいろいろ食べるのも面白い。いろいろなものを食べました。台湾では生まれたばかりのハツカネズミの子供を茹でて酢醤油で。見た目はグロテスクですが味はなかなです。タイでは孵化する直前の鳥のゆで卵も食べました。

 様々なテーマを追いかけて仕事をする上で、様々な知識が必要になってきます。高校時代、学生時代にはいろいろなことを勉強して知識を吸収する時期です。平沼は昔から「自由な校風」と言われた学校で、いろいろなことが出来る環境です。昔よりおとなしくなったように見えますが、自分の考えをしっかり述べられることも大切。頑張って勉強してください。

【生徒の感想】

 私は、将来の夢が決まっていません。しかし、海外の言葉や文化に興味があり、特に映画や本が好きなので、それに携わる仕事をしたいと思っています。映画は、ファンタジーやアクションなどをよく見るのですが、ドキュメンタリーというのは見たことがなかったので、どんな映画なのか興味を持ち、この講座をうけました。
 講座の中で見せていただいた「神々の棲む里」という作品は、本当に素晴らしかったです。主な題材が神というだけあって、映画全体は神秘的な感じで、音楽も日本らしい音色を奏でる筝を使っているということなので、「神」という雰囲気がすごく出ていました。私は、今まで洋画を中心に見てきたので、この映画が新鮮に感じられ、今まで知らなかった日本の土地や人々を知ることができて本当に良かったです。
 いい映画とは、見た人に感動や夢を与えてくれるものだと私は思います。私は、以前から映画監督にも興味を持っていました。今回この映画を見て、池田先輩の話も聞かせていただいて、私は、映画監督にいっそう興味を持ち、将来の夢の候補になりました。いい映画を、本当にありがとうございました。これからも頑張ってください。

2021年12月21日|公開:公開